DNS(ドメインネームシステム)そのもの、あるいは代表的なサーバ実装である BIND のバージョン 1〜9 という括りで「バージョンごとの要点」を整理することは、少々厳しい点があります。というのも、BINDの場合「バージョン 1〜9」という連続的な系譜として明確な情報が出ているのは、実質的には「4系 → 8系 → 9系」という区分であって、1〜3・5〜7・9直前のバージョンというような情報がきっちり残っているわけではないためです。 (ISC)
とはいえ、可能な範囲で「BIND(あるいはDNSサーバ実装)バージョンの区分(主に4・8・9)/各バージョンでの主な進化点」を「1〜9までの流れ」という形で“近似”して整理します。ご了承ください。
バージョン 1〜3(初期実装期)
- 1980年代初期、インターネット(ARPANET)の発展段階で、ホスト名/IPアドレス対応を人手(静的ファイル)で管理していた段階から、階層的な名称解決システムである DNS が設計されました。 (BIND 9 Documentation)
- Jeeves という最初期のDNSサーバ実装が Paul Mockapetris によって作られた、という記録があります。 (oreilly.com)
- 上記を「BIND 1〜3」という明確なバージョン番号で整理した資料は乏しく、「BINDとして正式に使われたバージョンは4系以降」という扱いが一般的です。
- 要点としては「DNSのプロトコル/名前空間・委任・ルートゾーン構造」の原理設計段階という位置づけです。
バージョン 4(BIND 4 系)
- BIND 4 系は、実際に広く使われた Unix 系 DNSサーバ実装の一つで、大学・研究ネットワーク・インターネット初期において標準的でした。 (LivingInternet)
- 主な特徴・進化点:
- BSD 系 OS(Berkeley UNIX)向けに開発され、「Berkeley Internet Name Domain」から BIND と名づけられた。 (The History of Domain Names)
- DNS の基礎仕様(例えば RFC 1034 「Domain Names — Concepts and Facilities」、RFC 1035 「Domain Names — Implementation and Specification」)に準拠し始めた段階。 (BIND 9 Documentation)
- ただし、セキュリティ機能・大規模化・IPv6対応などの観点では限界があり、後継バージョンが求められるようになった。
- 注意点として:BIND 4 系は現在では「非推奨(deprecated)」とされており、運用にはリスクがあります。 (ISC)
バージョン 5〜7(明確な区分ではなく移行・過渡期)
- BIND の公式「バージョン 5/6/7」という体系的なリリースラインが、BIND 4 → BIND 8 → BIND 9 といった大きなジャンプの間に明確には存在しない、というのが実情です。
- したがって、この区間を「バージョン 5〜7」として要点を整理するのは困難ですが、一般に「BIND 4 系から次世代のアーキテクチャを模索した段階」「セキュリティ意識・性能・拡張性の観点で限界が顕在化した時期」という位置づけで見ることができます。
- 要点として:
- 大規模な運用・インターネットの急速な拡大・IPv4アドレス枯渇問題・セキュリティ攻撃の増加、など運用環境が厳しくなってきた。
- そのため、次版である BIND 8 の準備・設計が進んだと考えられます。
バージョン 8(BIND 8 系)
- BIND 8 は、1997年5月に最初の生産対応版としてリリースされました。 (LivingInternet)
- 主な進化点:
- BIND 4 系に比べて多数の改良・機能追加がなされ、大規模運用・拡張性・可用性を意識した設計になった。 (The History of Domain Names)
- ただし、アーキテクチャが古く、後の DNSSEC/IPv6/マルチプロセッサ対応などには対応が弱かった。
- 現在では BIND 8 も非推奨とされ、運用継続にはセキュリティ的に注意が必要です。 (ISC)
- 要点:
- 大規模インターネットでの DNS サーバ運用を意識した「バージョンとしての成熟期」だが、将来の要求(セキュリティ・拡張性)には応えきれなかった。
- 次版での「全面的な書き直し」が検討される背景となった。
バージョン 9(BIND 9 系)
- BIND 9 は、2000年9月(もしくは10月)にリリースされ、「ほぼすべての主要なアーキテクチャを再設計した」バージョンです。 (BIND 9 Documentation)
- 主な進化点:
- 要点:
- 「従来の限界を超える次世代 DNS サーバ実装」として登場。
- セキュリティ強化と拡張性を両立し、インターネット拡大期の要求に応えた。
- 運用上は、BIND 9 をベースに、様々な機能強化(例:応答制限、TLS対応、DoH/DoTなど)も進んでいます。
まとめ表
以下、簡潔に「バージョン/主な特徴」という形で整理します。
| バージョン区分 | 主な特徴 |
|---|---|
| 1〜3(原型期) | DNSという仕組みの設計・実験運用期。Jeevesなど最初期実装。 |
| 4系(BIND 4) | 普及した Unix 系実装。DNS の基本仕様を反映。 |
| 5〜7(過渡期) | 明確なリリース体系ではないが、大規模運用・将来要件の課題が顕在化。 |
| 8系(BIND 8) | 大規模インターネット対応に向けた改良版。だがアーキテクチャ的に限界。 |
| 9系(BIND 9) | アーキテクチャ再設計。DNSSEC/IPv6/運用管理機能強化。現在主流。 |
はい、結論から言うと、現在 BIND 9 の次 “BIND 10” を目指した開発が進んでいたものの、 正式に「次期 BIND 10 リリースを目指す」状態ではなく、実質的に開発が終了・休止状態 になっています。以下、背景と現状、なぜ “新バージョン” が出ていないか、今後の可能性、という観点で整理します。
✅ 背景:BIND 10 プロジェクト
- ISC(Internet Systems Consortium)は、BIND 9 のアーキテクチャがやや古くなってきたという認識から、2009年頃に次世代 DNS サーバソフトとして BIND 10 プロジェクトをスタートしました。 (archive.icann.org)
- BIND 10 はモジュラー設計(プロセス分割)、SQL バックエンド構想、DHCP も含めた統合サービスという野心的な構想でした。 (ESNOG)
- そのため、「BIND9 → BIND10」というメジャーバージョンアップを期待する声もありました。
⚠️ 現状:BIND 10 開発の終了・休止
- しかし、2014年4月に ISC は “BIND 10 の開発を終了し、ソースをオープンでコミュニティに移譲する(名称を Bundy に変更)”と発表しています。 (ISC)
- Bundy はその後 github 等でコードが残っていますが、「開発中(actively maintained)」とは言えない状態となっており、実運用サーバとしての採用も限定的です。 (GitHub)
- 多くの運用者・ディストリビューションでは、BIND 9 が現在も主流で、BIND 10(あるいは Bundy)に移行するという明確なロードマップは存在していません。 (ウィキペディア)
📌 なぜ “BIND 10” が普及せず、次期バージョンとも言えないのか
主な理由として以下があります:
- 開発資源・スポンサー確保の難しさ:大規模な新アーキテクチャへの移行には多くの時間・人手・資金が必要でしたが、ISC がその継続に難しさを感じた模様です。 (Hacker News)
- 機能成熟・信頼性の確保:BIND 9 は既に広く使われており、長期間の運用実績があります。新バージョンで「完全な代替」を実現するためには相当の時間が必要でした。
- 移行コスト・互換性:新設計の BIND 10 が持つ構造変更(例えば設定方式、プロセス構成、SQLバックエンドなど)が、既存運用環境との整合性/移行容易性においてハードルになりました。
🔮 今後の見通し:BIND 10 後継という意味で「次期バージョン」はあるか?
- 現時点では「BIND 10 → BIND 11/BIND X」という明確なメジャーバージョンの公表・ロードマップは ISC から発表されていません。
- つまり、「BIND 9 の次」として公式に “新バージョン 10/11” が出る準備が整っている、という状況では ない というのが現実です。
- ただし、次のような可能性はあります:
- BIND 9 系の継続的な改良(マイナー/メンテナンス版)がさらに進んでおり、「バージョン10」という名称を付けずとも機能強化が図られています。
- コミュニティ・オープンソースプロジェクトが別の DNS サーバ実装を立ち上げ、実質的に次世代 DNS サーバの役割を担う可能性。
- 大規模なDNSインフラ/クラウドサービス業者が、内部的に別実装(カスタム)を使っており、一般公開版としての新バージョンが出ないまま次世代が進んでいる可能性。
✅ 要点まとめ
- はい、かつて “次期バージョン” として BIND 10 が構想・開発されていました。
- しかし現在:BIND 10 は ISC による積極開発が終了し、実運用・普及・次バージョンとしての位置づけともに中断・休止状態にあります。
- つまり、今「バージョン10を待てば良い」という明確なものは 存在しない と言えます。
- 現時点では、BIND 9 系を使いながら、運用者側での将来ロードマップ・製品戦略を立てることが現実的です。
